今回のジオラマ防災授業は仙台市の副都心とも言われる長町駅周辺を学区に持つ仙台市立八本松小学校5年生での実施です。
長町駅周辺には昔、貨車操車場があり、その後も近年まで線路が広がる平坦な場所でした。2011年東日本大震災の後には応急仮設住宅が建てられ、その年の大雨では仮設住宅の駐車場が冠水したというような被害もあった地域です。
現在は再開発によってJR線が高架化されたり、マンションや店舗、企業・市立病院など、高層建築物や大型店舗が立ち並ぶ賑わいのある都市の中で、旧来の地名を大切にしたり、広瀬川八本松緑地の緑が心地よい地域です。
学区は広瀬川に沿い広がり、それほど広い学区ではありませんが、今回のジオラマは広瀬川を中心に、学区外の隣接した地域も含めて子どもたちと学習を深めました。
仙台平野に立地する長町は海岸線から約8km離れていますが標高の低い地形。
その為、今回のジオラマの段数はあまり多くありませんでしたが、じっくり観察すると標高の低い地形の中にも川の合流点の地形に見られる特徴や人工的な造形が隠されている地域です。
(今回のジオラマの中の標高差は15m程)
ジオラマを枠から外す→積み重ねるという作業も、子どもたちはどのグループも声を掛け合いながら、どうやったら上手く外せるか、どこにどう重ねられるか、工夫しながら見つけ合い組み上げていきます。
普段は平らだと思って登校していた街にも実は凸凹が存在します。
※今回のジオラマは段ボール1枚が標高2m(高さ方向は2.5倍強調)です。
建物の高い低いは普段意識出来ていても、地形はなかなか気がつきにくいもの。これまでの教科での学びを活かし、地形を改めて防災の視点で見ると、授業後半で学ぶ災害特性がよりわかりやすくなります。
あっという間にジオラマを組み上げ、自分の家を探したり、お店を見つけたり、それぞれ組み上げたジオラマを観察した後は、4つのジオラマを組み合わせます。
一つの大きなジオラマになる瞬間は子どもたちにとっても盛り上がる瞬間です!
早速自分の家を見つけるために群がる子どもたち。平坦だからこそ、思わずジオラマに乗ってしまう姿も…それくらいのめり込む興味を引き出せるのもジオラマ学習の良いところ。
(局所的な重みで凹むので、そっと降りて貰いました…)
子どもたちは、毎日の生活の中で感じた「災害が起きたら危険そうな場所」をジオラマにそれぞれ付箋でマーキングし、全員でその内容を共有していきます。
高層マンションの間にある交差点に強風(ビル風)が吹く事、信号のない裏道に渋滞を避ける車が進入して怖いこと…子どもたちにはどれも毎日の危険なこと。
地形の姿の前に見えてくるのは、普段の生活の視点ですが、実はこれも地形が影響するまちづくりの課題かもしれません。
今回のジオラマには子どもたちが見つけた別の視点も。それは「刑務所・少年院」の存在です。
※ジオラマの角、子ども手元にあるのが宮城刑務所です。
学区ではありませんが、ジオラマで俯瞰することでたまたま見つけた「刑務所・少年院」
宮城刑務所は、仙台藩主伊達政宗が晩年過ごした居城「若林城跡」に建てられている為、元々あった土塁がジオラマでも表現されています。
子どもたちはそれを「塀」だと思った様子でしたが、地名の「古城」からもわかる通り、伊達政宗のもう一つの住まいだったよ、という話には「聞いたことがある!」「知っている!」の声も。
そしてすぐそばにある少年院にも災害時の危険を示すピンクの付箋が貼られていました。
「罪を犯してしまった人がいる」という怖いイメージを持っている様でしたが、ここでお話したのが、熊本地震の際の熊本刑務所での出来事。
実は刑務所は災害時に自治体の公的支援を受けることが出来ない(公的な避難所に逃げることなどが出来ない)為、ライフラインや備蓄など、職員・受刑者が1週間は自給できる体制を整えている、いわゆる防災力の高い場所です。
熊本地震では元々施設の性質上、堅牢な造りである為、被害が無く「地域住民の避難所」として活用されたと話をすると、最初は軽い気持ちでマーキングした場所にも「防災」と「社会との連携」があったことに、子どもたちの顔つきが真剣に変わった瞬間でもありました。
※仙台市も令和3年に災害時協定を締結しています。
こんな子どもたちのちょっとわき道に逸れる視点もジオラマの多様な気づきの賜物。学びの広がりとして大切な視点と捉えています。
そして多くの子どもたちの多くが「危険が起きるのではないか?」と想像したのが広瀬川やその支流でした。
大雨や洪水などで新幹線の高架橋がながされてしまうかも…
広瀬川の堤防から水が自分の住んでいる街に溢れてしまうかも…
幼稚園の近くの水路(支流)は少しの雨でも、すぐに水が多くなる
堤防のすぐ横に建つ八本松小学校にはどんな災害が想定されるのだろう?ハザードマップを見ると、思ったよりも大きく広がる洪水ハザード。
※赤い丸印の場所が八本松小学校
元々、洪水で出来た自然堤防・氾濫平野の地形の長町周辺はジオラマでも低い場所が見られ、内水氾濫では水が集まるところというのが直感的にわかります。
広瀬川のハザードはこれだけではありません。
内陸部の長町ですが、学校の下流側の目の前にある千代大橋まで、津波のハザードが想定されています。
東日本大震災では名取川を遡上した津波が、支流である広瀬川に流れ込み、学校から2km程上流にある広瀬橋まで津波が遡上したと言われています。
子どもたちが学校活動でも親しんでいる広瀬川八本松緑地。
地震が起きたら津波を想定することは、沿岸部に住む人たちだけの事ではないことも、仙台平野の大きな特徴。
子どもたちには大雨の時にも、地震の時にも、それぞれの災害の危険から「逃げる・離れる」ことの意味や、自分たちの暮らし方から本当に逃げなければならない状況か、どう逃げることが最善なのかを考える「想像力」そして、その為に本当に必要な「備え」を日頃から意識することが大切ということを最後に伝えました。
地形を知って、特性を知ることで、いのちを安全に導く。
八本松小学校のこの先の防災学習では、このジオラマで気づいた防災の視点を深め、拡げていって欲しいと願っています。