仙台市立荒巻小学校は仙台中心部から新興住宅街となった北部の地域を結ぶ都市計画道路(まちの発展・機能的な都市活動のために作られた道路)の側にある小学校です。
仙台市北部の北山丘陵に沿うように走る仙台駅からお隣の県の山形までを結ぶJR仙山線。その線路に沿うように横に広がる学区は、江戸時代には仙台藩の軍馬牧場だったとも言われ、田畑や山々に囲まれた自然豊かな土地柄の地域でした。今回のジオラマではそんな街の風景の移り変わりも地図を見ながら感じていきます。
入り組んだ住宅街に立地するこの小学校の特徴と言えるのは、地元住民が小学校を強く誘致したということ。私財の土地を安く提供し、教育の場を市民自らが作り出した仙台市初めての取組だったそうです。地域の宝として子たちが学ぶ場を、住民自らが作り出すパワー!この姿は今の子供たちにも受け継がれています!
これまで仙台市で実施してきた段ボールジオラマによる防災学習は、雨や川などの理科学習や社会科学習で防災の仕組みを学ぶ4~5学年での実施が多かったのですが、荒巻小学校では3年生が手を挙げてくれました!
というのも、荒巻小学校では地域の活性化を目指した「起業教育」の取組が進められています。3年生では、消防や警察といった公助の学習が社会科にありますが、それと並んで大切な自助と共助で地域の視点を学ぶ、地形からまちを知ることで、より地域への視点を深め、地域と共にあることが、子供たちの意識にも下学年の頃から少しずつ積み重ねられていくのかもしれないと感じました。
余談ですが、入口が分からない私を、昇降口まで鬼ごっこから逃げながらも「案内します!」とエスコートしてくれた数人のお子さん。きっと「自分が出来ること」を見つけるのが得意なのだろうなぁ!と感じて学校に入りましたが、これも学習を通じて身につけているからかもしれないな、と感じた出来事でした。
さて、段ボールジオラマの防災授業ですが、このジオラマは直感的にパズルのように地層を重ねていくので、3年生でも難なく作ることができます。授業の内容は、まだ習っていない知識も多いので、生活の中にある体験から導き出します。
例えば、4年生の学習では雨の浸透を学びますし、川が上流から下流に流れる仕組みは5年生で学びますが、3年生では雨が降ったら水たまりや道路を流れ始める小さな水の流れはどんなところにできるだろう?その水はどこへいくのかな?と日頃の生活を防災に結びつけていきます。普段の生活に自然のはたらきを見つけ、防災の視点を添えることは、この後の生活でふと防災教育を思い出すフックにもなります。
また今回の授業は地域の皆さんにも公開していただきました。折角なので一緒にジオラマを作って、観察していただきました! とはいえ、注意や指示をする大人はいません。子供たちの動きを尊重し、見守りながらも授業に参加いただきました。大人も子供も楽しく学ぶ姿が学校にある!なんてすてきな風景でしょう!
今回の授業ではジオラマ上の「まち探検」に出て、ジオラマをじっくり見る時間を取りました。
そこでびっくりしたのは、4・5年生でも見つけられない子が多い「自宅」の場所を共に見つけ合う姿があったこと! 「近くに○○神社があるんだけど…」「黒い壁のお店があって…」・・すかさず「どれどれ…」とアンテナが立つ地元の皆さんや他の子供たち。分からない児童には丁寧に一緒に自宅探しをしてくださいました。(分からないといっても、本当に検討がつかないお子さんはほとんどいなく「やっぱりここだよね!」と確認作業をしている雰囲気)
自分がどこにいるのか、どう道を選び逃げれば良いのか、もしかしたら近い将来「AI避難」なんてことが出てくるかもしれませんが、やはり自分の力を高めておくことは人の命にも直結することなので大切。そして、まさに誰かと協力して作業をするこのジオラマの活動は、共助のこころを育てる一つの視点なのかもしれません。
このあたりは元々、山麓に流れる川の周囲に田園が拡がる地域でした。
山を削るように川の付近は低地となっていることが、ジオラマでは一目瞭然です。
また、今はたくさんの家が建っている学区も、昔は山だったことがわかる地図も。
山に降った雨は、川に集まり、海まで続く…新しい町の姿には山の風景はほとんどありませんが、その自然の営みは変わりません。地域を地形で知ることで、これまでの浸水・冠水の経験や土砂災害の理由と危険性を学び、それを悲観する・怖がるのではなく「だったらどうしよう?」と「自分にできること」を、希望を見つけていく防災・減災。
この先にある教科の学びは、暮らしに関係ないかも…と思う子供たちもいますが、実は違う視点で見ると暮らしに大切なこと、役立つこと、希望がたくさん散りばめられています。今回のジオラマでの学習も「自分にできること」という視点を育む一助になっていればいいな!いや、きっとなってくれている!のではないでしょうか。
防災ジオラマを通じて、荒巻小で芽生えた子どもたちの学びの芽が、地域の方々の温かい光を受け、人を思い、人の為の「起業家精神」として伸び伸びと育っていくことを楽しみにしています!